「大好きな曲のサビになると、どうしても喉がキュッと締まって苦しくなる」
「YouTubeのボイトレ動画を見て『ミックスボイス』を練習しているけれど、結局ただの叫び声になってしまう」
「高い声を出すために、もっとお腹に力を入れて声を張らなきゃいけないと思っている」
もしあなたが今、そうやってカラオケや自宅で喉を痛めながら悩んでいるなら、まず最初にお伝えしたいことがあります。
「高い声が出ないのは、あなたの肺活量や筋力が足りないからではありません。むしろ、頑張って『声を張ろう』とすればするほど、高音は出なくなります」
私は音楽制作スタジオ「beside」の代表プロデューサーとして楽曲制作やMIXを手がける一方で、これまで17年間にわたりボーカル指導の現場で数多くの歌声と向き合ってきました。
その中で痛感しているのは、「ネットやSNSのボイトレ情報を真面目に勉強している人ほど、言葉のイメージに囚われて喉を固めてしまっている」という残酷な現実です。
なぜ、頑張って練習しているのに高音が出ないのか?
どうすれば力みのない自由な声で、憧れのサビを歌い切ることができるのか?
今回は、私自身が過去に「張り上げ癖」で喉を痛め、挫折した実体験も交えながら、発声の真実をお伝えします。
1. 「腹式呼吸」や「喉を開ける」を意識しすぎる落とし穴
ボイトレの基本として、誰もが一度は耳にしたことがある2つの言葉があります。
「お腹から声を出して(腹式呼吸)」、そして「あくびをするように喉を開けて」。
もちろん、これら自体が間違った理論というわけではありません。
問題なのは、「言葉の抽象的なイメージだけを鵜呑みにして、自分の喉を力ませてしまうこと」にあります。
私のレッスン現場でも、まさにこの罠にハマっていた生徒さんがたくさんいらっしゃいました。
ケース1:「お腹に力を入れなきゃ」と意識しすぎて呼吸が浅くなっていた生徒
「腹式呼吸=お腹を固くして息を強く吐くこと」と思い込んでいた生徒さん。
歌う前から「肩を絶対に動かさないぞ」と上半身をガチガチに緊張させ、下腹部を無理に力ませていたため、肺に自然な空気が入らず、結果として極端に呼吸が浅くなって声が詰まっていました。
ケース2:「喉を開けなきゃ」と力んで、Aメロから声を太く作りすぎていた生徒
「喉を開ける=喉仏を無理やり引き下げて口の奥を巨大に広げること」と解釈していた生徒さん。
曲の冒頭(Aメロ)から必要以上にオペラ歌手のような重く太い声を作ってしまい、首筋に血管が浮き出るほど筋肉を緊張させていました。その結果、高音に行く前に喉の柔軟性が完全に失われ、サビの最高音で限界を迎えて声がひっくり返っていたのです。
ボイトレ用語は、あくまで「感覚を説明するための比喩」に過ぎません。
「その練習法が正しいかどうか」ではなく、「今の自分の喉や身体の状態に合っているかどうか」を見極めないと、良かれと思ってやった練習が真逆の悪癖を定着させてしまうのです。
2. 実は私自身も、かつては「力任せの張り上げ癖」で喉を壊した
偉そうに指導法を語っている私ですが、実を言うと、若い頃は誰よりも重度の「張り上げ癖」に苦しんでいた張本人でした。
当時の私は、「声量が大きいことこそが正義」「ロックやJ-POPの高音は気合いと根性で張り上げるものだ」と信じ込んでいました。
地声は太くパワフルに出せる一方で、裏声はか細くて弱々しい。
地声と裏声の出力バランスが完全にちぐはぐだったため、「地声のパワーのまま、力づくでサビの高音まで押し切る」という歌い方を何年も続けていたのです。
その結果どうなったか。
ライブの1曲目で声がガラガラになり、サビの高音では首を絞められたような苦痛に襲われ、最終的には声帯を痛めて全く声が出なくなるという深い挫折を味わいました。
「なぜ、あんなに練習しているのに歌えないんだ……」
絶望の中で何年も試行錯誤を重ね、解剖学や海外の発声理論を学び直してようやく辿り着いた答えが、「声は、力を入れるほど出なくなる。抜けば抜くほど、勝手に伸びていく」というシンプルな真実でした。
だからこそ、いま高音が出ずに喉を締め付けて苦しんでいるあなたの気持ちが、痛いほどよく分かるのです。
3. 高音が苦しい原因は「サビ」ではなく「Aメロ」にある
レッスンに来られる生徒さんの多くは、「サビの高いファ(F4)やソ(G4)が出ないんです」と、サビの高音そのものを問題視して相談に来られます。
しかし、実際に歌ってもらうと、原因はサビにはありません。
「曲の歌い出し(Aメロ〜Bメロ)の時点で、すでに失敗が確定している」ケースが9割以上です。
【張り上げ癖がある人の悪循環】
Aメロ(低音〜中音):重く太い地声でしっかり声を張って歌ってしまう
↓
Bメロ(中高音):そのままの重いフォームで音程を上げようとして、首や喉に力みが入る
↓
サビ(高音):すでに喉の筋肉が限界まで収縮!これ以上引っ張れず、喉が締まって窒息状態に
高音を出すために必要なのは、声帯を薄く引き伸ばす筋肉(輪状甲状筋など)の柔軟な働きです。
ところが、Aメロの低い音から分厚い地声の筋肉をフル稼働させて声を張ってしまうと、その重い負荷を抱えたままサビまで駆け上がることになります。
重いバーベルを担いだまま全力疾走しようとするようなものです。サビに着く頃にはスタミナも喉の可動域も完全に底をついてしまいます。
改善の第一歩は「Aメロを徹底的に省エネで歌うこと」
当時の指導現場で私が「Aメロは、隣の人に話しかけるくらいの軽さで、息混じりでサラッと歌ってください」とアドバイスすると、多くの方が決まって驚かれました。
「えっ、こんなに軽く歌っちゃっていいんですか? 全然歌った気がしないんですけど……」
しかし、その「省エネ」のフォームを保ったままサビへ進むと、驚くことが起きます。
「あれ……? いつもあんなに苦しかったサビの高音が、スッと息が通って出ちゃいました!」
音量の大きさと、歌の表現力は別物です。
曲の序盤をいかに脱力してコントロールし、サビに喉の余力を残せるか。これが高音攻略の最大の鍵です。
4. ミックスボイスを出したいなら、まず「声量」を捨てよう
近年、歌を志す人の間で魔法のテクニックのように語られる「ミックスボイス」。
地声のような芯がありながら、裏声のように楽に高音まで出せる発声状態のことです。
「早くミックスボイスを身につけて、力強い高音を響かせたい!」と焦る人ほどやってしまうのが、「地声の音量をキープしたまま、無理やり高音域へ突っ込む」という練習です。
断言しますが、そのやり方では一生ミックスボイスの感覚は掴めません。
ミックスボイス習得の真のステップ
ミックスボイスとは、ゼロから新しい特殊な声を産み出す技術ではありません。
「地声」と「裏声」という2つの異なる筋肉の使い方が、滑らかに手を取り合って融合(ミックス)した状態のことです。
そのためには、以下のステップを踏む必要があります。
- 声量を一旦ゼロベースに戻す:
大きな声を出そうとする意識を完全に捨てます。
- 地声と裏声の「出力(力加減)」を均等にする:
多くの人は「地声=100の力」「裏声=20の力」と極端なギャップを持っています。どちらも「30〜40くらいの優しい力加減」で鳴らせるように感覚を揃えます。
- 苦しい高音は、一旦すべて「綺麗な裏声」に逃がす:
張り上げそうになる音域は、意地を張らずにすべて息漏れのないクリアな裏声で歌い、「喉を締め付けずに高音を通す軌道」を身体に覚え込ませます。
- 脱力した裏声のフォームに、少しずつ地声の芯(声帯の閉鎖)を混ぜていく:
力みがない土台の上に、ほんの少しだけ声帯を合わせる感覚をブレンドしていくことで、自然と芯のある高音(ミックスボイス)へと進化していきます。
※声帯の形状や骨格には個人差があるため、この感覚を掴むまでのアプローチや期間は人それぞれ異なりますが、「力みを抜くことが大前提」である点はすべての人に共通しています。
5. 今日から自宅でできる!「鼻歌・ささやき声」練習法
「防音室もないし、アパートだから大きな声で練習できない……」という方に朗報です。
実は、高音を楽に出すための最も効果的なトレーニングは、近所迷惑にならない極小の音量でこそ効果を発揮します。
今日からベッドの上やお風呂で実践できる、最強の脱力エクササイズをご紹介します。
「寝起きの鼻歌(ハミング)」で1曲歌う
- 口を閉じ、鼻の奥に軽く響かせるように「フーン…」と小さくハミングします。
- 音量は、「すぐ隣の部屋の人にも聞こえないくらいの小ささ」です。
- その脱力した鼻歌のまま、いつも高音が苦しくて歌えない曲を、Aメロからサビまで1曲まるごと通して歌ってみてください。
【ポイント】
高音に差し掛かっても、絶対に鼻歌の音量を大きくしてはいけません。
「小さな音量のまま、音程だけをスッと上に滑らせる」感覚を意識します。
すると、「あ、喉に力を入れなくても、高い音程って当たるんだ」という感覚が脳と喉にインプットされます。
まずはこの「最小限のエネルギーで音程をコントロールする感覚」を身体に染み込ませてください。声量を乗せるのは、この脱力フォームが完成してからで十分間に合います。
6. 自己流で喉を痛める前に、第三者の客観的な耳を取り入れよう
ここまで脱力の重要性をお伝えしてきましたが、最後に一つだけ、どうしてもお伝えしておきたい注意点があります。
それは、「声の癖は、自分一人ではなかなか客観視できない」ということです。
声は、自分の頭蓋骨や骨を伝わって聴こえる「骨伝導」の音と、外に出て跳ね返ってくる音が混ざって聴こえています。そのため、「自分が気持ちよく出せている感覚」と「外から客観的に聴いた発声状態」には、必ず大きなズレが生じます。
- 「力を抜いているつもりなのに、実は舌の根元がガチガチに力んでいる」
- 「裏声を出しているつもりなのに、息が漏れすぎて声帯に負担がかかっている」
- 「マイク乗りの悪い発声のまま、力任せに録音してしまっている」
こうした微細なエラーは、YouTubeの動画を見ているだけではなかなか気づけません。
指紋が一人ひとり違うように、喉の骨格、声帯の厚み、筋肉のバランスは全員異なります。
自分の声をしっかり録音して客観的に聴き返したり、プロのエンジニアやプロデューサーに音源を聴いてもらって「今の自分の声の魅力と課題」を客観的に把握することが、遠回りを防ぐ最速のルートになります。
まとめ:高音は「力でねじ伏せる」のではなく「抜いて響かせる」もの
- 「腹式呼吸」や「喉を開ける」という言葉を過剰に意識すると、かえって過緊張を生む。
- 高音が苦しくなる原因は、サビではなくAメロからの張り上げにある。
- ミックスボイスを身につけたいなら、まずは大きな声量を捨てて地声と裏声のバランスを整える。
- 今日から自宅でできる「鼻歌レベルの小声練習」で、脱力した高音の軌道を掴む。
- 自己流の力みで喉を壊す前に、録音やプロの客観的な耳を通じて自分の声の特性を知る。
高い声を出すことは、特別な才能を持った人だけの特権ではありません。
無駄な力みを手放し、声帯が自然に振動する仕組みさえ整えてあげれば、あなたの声はもっと自由に、どこまでも伸びやかに響くようになります。
besideからのご案内|あなたの歌声の魅力を最大限に引き出すボーカルMIX・楽曲制作
「自宅で録音したボーカルデータのピッチやタイミングを自然に整え、プロクオリティの商業音源に仕上げてほしい」
「自分の声のレンジやキャラクターに合わせた、無理なく歌えて一番魅力が引き立つオリジナル曲・オケを作ってほしい」
「歌ってみたの音源を、オケに埋もれず声がスッと前に抜けてくるハイクオリティなMIXにしてほしい」
beside(ビサイド)は、福岡を拠点に全国のアーティスト、シンガーソングライター、歌い手、声優、VTuberの皆様のオリジナル楽曲制作、アレンジ(編曲)、そして歌ってみたボーカルMIX・マスタリングを手がける音楽制作スタジオです。
17年間のボーカル指導・現場ディレクション経験と、15年以上の音楽制作・エンジニアリングの実績を持つ代表プロデューサーが、歌い手一人ひとりの声質や感情のニュアンスに寄り添い、あなたの声が持つ本来の輝きを音源として極限まで引き出します。
楽曲制作やボーカルMIXに関するご相談は、ぜひお気軽にbesideのWEBご相談フォームよりお問い合わせください。